食読のすすめ

読んだ本の紹介と感想を書いているブログです。

『時間術大全』―人生が本当に変わる「87の時間ワザ」

 この本はよくある「ハウツー本」ではない。読者の意識だけ高め、具体的なプランを提示しない「自己啓発本」でもない。極めて庶民的で、現実的で、読んだ次の日から実践できる内容で溢れている。

 

 本書に書かれている時間を生み出す方法は、以下に書く4ステップを毎日繰り返すことだ。

 ステップ1:ハイライト(毎日「最重要事項」を選ぶ)

 ステップ2:レーザー(「気を散らすもの」を撃退する)

 ステップ3:チューニング(体を使って「脳を充電」する)

 ステップ4:チャージ(システムを調整、改善する)

 

 まず1日の始まりに、その日やりたいこと、やる必要があることを1つだけ決める(ステップ1)。次に、スマホやPCなどのテクノロジーを調整して、ハイライトに集中できる環境を整える(ステップ2)。もちろん、運動や食事で脳にエネルギーを与えることも忘れてはいけない(ステップ3)。そして、最後はその日の出来を振り返ることで締めくくる(ステップ4)。

 これがGoogleYoutubeといった多忙な企業で時間をデザインしてきた著者らがたどり着いた結論だ。

 そして、上記の4ステップで使える具体的なアクションプランがステップ毎に紹介されており、その数は合計87個にも上る。上記のステップが「戦略」だとするならば、提示されているアクションプランは「戦術」といえるだろう。そんな87個ある「戦術」の中で、私が特に気に入ったものをいくつか紹介しよう。

 

戦術13:1日をデザインする

 本書ではカレンダーに細かく予定を書き込む方法が提案されていた。しかし、その方法は私には合わなかったため、少し変えてその日の行動を随時、カレンダーに細かく書き込むことにしている。

 これは、「随時」というのがポイントで、ついさっきまで取っていた行動をカレンダーに書き込むと「時間を支配している感覚」というものを得ることができ、主体的に生きられる。

 

戦術21:腕時計をはめる

 時間を確認しようとスマホを覗いたとき、SNSYoutubeの通知が目に飛び込み、気がつけばとんでもない時間をスマホに費やしていたことは誰もがあるだろう。無論、私も幾度となくある。でも、腕時計があればもう大丈夫。スマホを開かなくていいからね。

 

戦術84:日没をつくりだす

 夜になったら照明を暗くする。もちろん部屋で活動するときは真っ暗にはできないが、そういうときは夜が更けるにつれ少しずつ部屋を暗くしていく。そうすることで擬似的に日没をつくりだし、脳をだますのだ。本当にびっくりするくらい眠くなるからおすすめの方法である。

 

 他にもたくさんの面白い戦術が紹介されていたが、すべて書くのは面倒くさい(あとあんまり知られたくない)のでこれぐらいにしておこう。地味に朝型vs夜型のコラムなんかも面白い。気になる人は是非自分で手に取ってみてほしい。

 

 冒頭で、本書は極めて庶民的で、現実的だと書いた。紹介されている戦術もためになるものが多い。だが、本書の特筆すべき点はそこじゃないと感じた。

 恥ずかしながら、「時間術」の本は今まで何度も読んできたことがある。それはつまり、何度も失敗を重ねてきたということである。意外と私みたいな人は多いんじゃないだろうか(と信じている)。ではなぜ、そんな私が本書の内容を実践し、生活を改善できたのだろう。

 今考えると、それは著者らの時間に対するスタンスが私のそれと類似していたからだと思う。著者らは冒頭で、生産性を上げることは何の解決策にもならないと述べており、いわゆる「コスパ思考」「タイパ思考」を否定している。本当に大事なのは、生産性を上げることではなく、生み出した時間で「自分にとって一番大事なこと」を行うことだろう。

 だからこそ、本書では時間を「節約する」方法ではなく、「生み出す」方法が紹介されている。「自分にとって一番大事なこと」を行う時間を「生み出す」方法だ。やりたいことがあっても時間がとれないと悩む方や、今の自分の状況に満足していない方には本書をおすすめしたい。きっと助けになるだろう。